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プリベット通り四番地の住人ダーズリー<ruby>夫<rt>ふ</rt></ruby><ruby>妻<rt>さい</rt></ruby>は、「おかげさまで、私どもはどこから見ても[まとも]{.em_bullet}な人間です」というのが<ruby>自<rt>じ</rt></ruby><ruby>慢<rt>まん</rt></ruby>だった。<ruby>不<rt>ふ</rt></ruby><ruby>思<rt>し</rt></ruby><ruby>議<rt>ぎ</rt></ruby>とか<ruby>神<rt>しん</rt></ruby><ruby>秘<rt>ぴ</rt></ruby>とかそんな<ruby>非<rt>ひ</rt></ruby><ruby>常<rt>じょう</rt></ruby><ruby>識<rt>しき</rt></ruby>はまるっきり認めない<ruby>人<rt>じん</rt></ruby><ruby>種<rt>しゅ</rt></ruby>で、まか不思議な<ruby>出<rt>で</rt></ruby><ruby>来<rt>き</rt></ruby><ruby>事<rt>ごと</rt></ruby>が彼らの<ruby>周辺<rt>しゅうへん</rt></ruby>で起こるなんて、とうてい考えられなかった。 ダーズリー氏は、穴あけドリルを<ruby>製<rt>せい</rt></ruby><ruby>造<rt>ぞう</rt></ruby>しているグラニングズ社の社長だ。ずんぐりと肉づきがよい体型のせいで、首がほとんどない。そのかわり巨大な<ruby>口<rt>くち</rt></ruby><ruby>髭<rt>ひげ</rt></ruby>が目立っていた。奥さんの方はやせて、<ruby>金<rt>きん</rt></ruby><ruby>髪<rt>ぱつ</rt></ruby>で、なんと首の長さが普通の人の二倍はある。<ruby>垣<rt>かき</rt></ruby><ruby>根<rt>ね</rt></ruby><ruby>越<rt>ご</rt></ruby>しにご近所の様子を<ruby>詮<rt>せん</rt></ruby><ruby>索<rt>さく</rt></ruby>するのが<ruby>趣<rt>しゅ</rt></ruby><ruby>味<rt>み</rt></ruby>だったので、<ruby>鶴<rt>つる</rt></ruby>のような首は実に便利だった。ダーズリー夫妻にはダドリーという男の子がいた。どこを探したってこんなにできのいい子はいやしない、というのが二人の親バカの意見だった。 そんな絵に<ruby>描<rt>か</rt></ruby>いたように満ち足りたダーズリー家にも、たった一つ<ruby>秘<rt>ひ</rt></ruby><ruby>密<rt>みつ</rt></ruby>があった。なにより<ruby>怖<rt>こわ</rt></ruby>いのは、誰かにその秘密を<ruby>嗅<rt>か</rt></ruby>ぎつけられることだった。 ――あのポッター一家のことが誰かに知られてしまったら<ruby>一<rt>いっ</rt></ruby><ruby>巻<rt>かん</rt></ruby>の終わりだ。 ポッター夫人はダーズリー夫人の実の妹だが、二人はここ数年一度も会ってはいなかった。それどころか、ダーズリー夫人は妹などいないというふりをしていた。なにしろ、妹もそのろくでなしの夫も、ダーズリー家の<ruby>家<rt>か</rt></ruby><ruby>風<rt>ふう</rt></ruby>とはまるっきり正反対だったからだ。 ――ポッター一家が<ruby>不<rt>ふ</rt></ruby><ruby>意<rt>い</rt></ruby>にこのあたりに現れたら、ご近所の人たちがなんと言うか、考えただけでも身の毛がよだつ。 ポッター家にも小さな男の子がいることを、ダーズリー夫妻は知ってはいたが、ただの一度も会ったことがない。 ――そんな子と、うちのダドリーがかかわり合いになるなんて......。 それもポッター一家を遠ざけている理由の一つだった。 さて、ある火曜日の朝のことだ。ダーズリー一家が目を<ruby>覚<rt>さ</rt></ruby>ますと、外はどんよりとした灰色の空だった。物語はここから始まる。まか不思議なことがまもなくイギリス中で起ころうとしているなんて、そんな<ruby>気<rt>け</rt></ruby><ruby>配<rt>はい</rt></ruby>は曇り空のどこにもなかった。ダーズリー氏は鼻歌まじりで、仕事用の思いっきりありふれた<ruby>柄<rt>がら</rt></ruby>のネクタイを選んだ。奥さんの方は大声で泣きわめいているダドリー坊やをやっとこさベビーチェアに座らせ、<ruby>嬉<rt>き</rt></ruby><ruby>々<rt>き</rt></ruby>としてご近所の<ruby>噂話<rt>うわさばなし</rt></ruby>を始めた。 窓の外を、大きなふくろうがバタバタと飛び去っていったが、二人とも気がつかなかった。八時半、ダーズリー氏は<ruby>鞄<rt>かばん</rt></ruby>を持ち、奥さんの<ruby>頬<rt>ほほ</rt></ruby>にちょこっとキスして、それからダドリー坊やにもバイバイのキスをしようとしたが、しそこなった。坊やが<ruby>癇<rt>かん</rt></ruby><ruby>癪<rt>しゃく</rt></ruby>を起こして、コーンフレークを皿ごと<ruby>壁<rt>かべ</rt></ruby>に投げつけている<ruby>最中<rt>さいちゅう</rt></ruby>だったからだ。「わんぱく<ruby>坊<rt>ぼう</rt></ruby><ruby>主<rt>ず</rt></ruby>め」ダーズリー氏は満足げに笑いながら家を出て、<ruby>自<rt>じ</rt></ruby><ruby>家<rt>か</rt></ruby><ruby>用<rt>よう</rt></ruby><ruby>車<rt>しゃ</rt></ruby>に乗り<ruby>込<rt>こ</rt></ruby>み、四番地の<ruby>路<rt>ろ</rt></ruby><ruby>地<rt>じ</rt></ruby>をバックで出ていった。広い通りに出る前の角のところで、ダーズリー氏は、初めて何かおかしいぞと思った。 ――なんと猫が地図を見ている――ダーズリー氏は<ruby>一瞬<rt>いっしゅん</rt></ruby>、目を<ruby>疑<rt>うたが</rt></ruby>った。もう一度よく見ようと急いで振り返ると、たしかにプリベット通りの角にトラ猫が一匹立ち止まっていた。しかし、地図の方は見えなかった。ばかな、いったい何を考えているんだ。きっと光のいたずらだったに違いない。ダーズリー氏は<ruby>瞬<rt>まばた</rt></ruby>きをして、もう一度猫をよく見なおした。猫は見つめ返した。角を曲がり、広い通りに出た時、バックミラーに映っている猫が見えた。なんと、今度は「プリベット通り」と書かれた<ruby>標識<rt>ひょうしき</rt></ruby>を読んでいる。――いや、「見て」いるだけだ。猫が地図やら標識やらを読めるはずがない。ダーズリー氏は体をブルッと振って気を取りなおし、猫のことを頭の中から振り払った。<ruby>街<rt>まち</rt></ruby>に向かって車を走らせているうちに、彼の頭は、その日に取りたいと思っている穴あけドリルの<ruby>大<rt>おお</rt></ruby><ruby>口<rt>ぐち</rt></ruby><ruby>注<rt>ちゅう</rt></ruby><ruby>文<rt>もん</rt></ruby>のことでいっぱいになった。 ところが、街はずれまで来た時、穴あけドリルなど頭から吹っ飛ぶようなことが起こったのだ。いつもの朝の<ruby>渋滞<rt>じゅうたい</rt></ruby>に巻き<ruby>込<rt>こ</rt></ruby>まれ、車の中でじっとしていると、<ruby>奇妙<rt>きみょう</rt></ruby>な服を着た人たちがうろうろしているのが、いやでも目についた。マントを着ている。 ――おかしな服を着た<ruby>連中<rt>れんちゅう</rt></ruby>には<ruby>我<rt>が</rt></ruby><ruby>慢<rt>まん</rt></ruby>がならん――<ruby>近<rt>ちか</rt></ruby><ruby>頃<rt>ごろ</rt></ruby>の若いやつらの<ruby>格<rt>かっ</rt></ruby><ruby>好<rt>こう</rt></ruby>ときたら! マントも最近のバカげた<ruby>流行<rt>りゅうこう</rt></ruby>なんだろう。 ハンドルを指でイライラと<ruby>叩<rt>たた</rt></ruby>いていると、ふと、すぐそばに立っているおかしな連中が目に止まった。何やら<ruby>興<rt>こう</rt></ruby><ruby>奮<rt>ふん</rt></ruby>して<ruby>囁<rt>ささや</rt></ruby>き合っている。けしからんことに、とうてい若いとは言えないやつが数人<ruby>混<rt>ま</rt></ruby>じっている。 ――あいつなんか自分より年をとっているのに、エメラルド色のマントを着ている。どういう<ruby>神<rt>しん</rt></ruby><ruby>経<rt>けい</rt></ruby>だ! 待てよ。ダーズリー氏は、はたと思いついた。 ――くだらん<ruby>芝<rt>しば</rt></ruby><ruby>居<rt>い</rt></ruby>をしているに違いない――当然、連中は<ruby>寄<rt>き</rt></ruby><ruby>付<rt>ふ</rt></ruby>集めをしているんだ......そうだ、それだ! やっと車が流れはじめた。数分後、車はグラニングズ社の駐車場に着き、ダーズリー氏の頭は穴あけドリルに戻っていた。 ダーズリー氏のオフィスは十階で、いつも窓に背を向けて座っていた。そうでなかったら、<ruby>今<rt>け</rt></ruby><ruby>朝<rt>さ</rt></ruby>は穴あけドリルに集中できなかったかもしれない。<ruby>真<rt>ま</rt></ruby>っ<ruby>昼<rt>ぴる</rt></ruby><ruby>間<rt>ま</rt></ruby>からふくろうが空を飛び<ruby>交<rt>か</rt></ruby>うのを、ダーズリー氏は見ないですんだが、<ruby>道<rt>みち</rt></ruby><ruby>行<rt>ゆ</rt></ruby>く多くの人はそれを<ruby>目<rt>もく</rt></ruby><ruby>撃<rt>げき</rt></ruby>した。ふくろうが次から次へと飛んでゆくのを指さしては、いったいあれは何だと口をあんぐり<ruby>開<rt>あ</rt></ruby>けて見つめていたのだ。ふくろうなんて、たいがいの人は夜にだって見たことがない。ダーズリー氏は昼まで、しごくまともに、ふくろうとは<ruby>無<rt>む</rt></ruby><ruby>縁<rt>えん</rt></ruby>で過ごした。五人の社員を<ruby>怒<rt>ど</rt></ruby><ruby>鳴<rt>な</rt></ruby>りつけ、何本か重要な電話をかけ、また少しガミガミ怒鳴った。おかげでお昼までは<ruby>上<rt>じょう</rt></ruby><ruby>機<rt>き</rt></ruby><ruby>嫌<rt>げん</rt></ruby>だった。それから、少し手足を伸ばそうかと、道路の向かい側にあるパン屋まで歩いて買い物に行くことにした。 マントを着た連中のことはすっかり忘れていたのに、パン屋の手前でまたマント集団に出会ってしまった。そばを通り過ぎる時、ダーズリー氏は、けしからんとばかりに<ruby>睨<rt>にら</rt></ruby>みつけた。なぜかこの<ruby>連中<rt>れんちゅう</rt></ruby>は、ダーズリー氏を不安な<ruby>気<rt>き</rt></ruby><ruby>持<rt>もち</rt></ruby>にさせた。このマント集団も、何やら<ruby>興<rt>こう</rt></ruby><ruby>奮<rt>ふん</rt></ruby>して<ruby>囁<rt>ささや</rt></ruby>き合っていた。しかも<ruby>寄<rt>き</rt></ruby><ruby>付<rt>ふ</rt></ruby>集めの<ruby>空<rt>あき</rt></ruby><ruby>缶<rt>かん</rt></ruby>が一つも見当たらない。パン屋からの帰り道、大きなドーナツを入れた紙袋を<ruby>握<rt>にぎ</rt></ruby>り、また連中のそばを通り過ぎようとしたその時、こんな言葉が耳に飛び<ruby>込<rt>こ</rt></ruby>んできた。 「ポッターさんたちが、そう、わたしゃそう聞きました......」 「......そうそう、<ruby>息子<rt>むすこ</rt></ruby>のハリーがね......」 ダーズリー氏はハッと立ち止まった。<ruby>恐怖<rt>きょうふ</rt></ruby>が<ruby>湧<rt>わ</rt></ruby>き上がってきた。いったんはヒソヒソ声のする方を振り返って、何か言おうかと思ったが、待てよ、と考えなおした。 ダーズリー氏は<ruby>猛<rt>もう</rt></ruby>スピードで道を横切り、オフィスに<ruby>駆<rt>か</rt></ruby>け戻るやいなや、<ruby>秘<rt>ひ</rt></ruby><ruby>書<rt>しょ</rt></ruby>に「誰も取り継ぐな」と命令し、ドアをピシャッと閉めて電話をひっつかみ、家の番号を回しはじめた。しかし、ダイヤルし終わらないうちに気が変わった。<ruby>受<rt>じゅ</rt></ruby><ruby>話<rt>わ</rt></ruby><ruby>器<rt>き</rt></ruby>を置き、<ruby>口<rt>くち</rt></ruby><ruby>髭<rt>ひげ</rt></ruby>をなでながら、ダーズリー氏は考えた。 ――まさか、自分はなんて<ruby>愚<rt>おろ</rt></ruby>かなんだ。ポッターなんて珍しい名前じゃない。ハリーという名の男の子がいるポッター家なんて、山ほどあるに違いない。考えてみりゃ、<ruby>甥<rt>おい</rt></ruby>の名前がハリーだったかどうかさえ確かじゃない。一度も会ったこともないし、ハービーという名だったかもしれない。いやハロルドかも。こんなことで妻に心配をかけてもしょうがない。妹の話がチラッとでも出ると、あれはいつも取り乱す。無理もない。もし自分の妹があんなふうだったら......それにしても、いったいあのマントを着た連中は......。 昼からは、どうも穴あけドリルに集中できなかった。五時に会社を出た時も、何かが気になり、外に出たとたん誰かと<ruby>正面<rt>しょうめん</rt></ruby><ruby>衝突<rt>しょうとつ</rt></ruby>してしまった。 「すみません」 ダーズリー氏は<ruby>呻<rt>うめ</rt></ruby>き声を出した。相手は小さな老人で、よろけて転びそうになった。数秒後、ダーズリー氏は老人がスミレ色のマントを着ているのに気づいた。地面にバッタリはいつくばりそうになったのに、まったく気にしていない様子だ。それどころか、顔が上下に割れるかと思ったほど大きくにっこりして、<ruby>道<rt>みち</rt></ruby><ruby>行<rt>ゆ</rt></ruby>く人が振り返るほどのキーキー声でこう言った。 「<ruby>旦那<rt>だんな</rt></ruby>、すみませんなんてとんでもない。今日は何があったって気にしませんよ。<ruby>万<rt>ばん</rt></ruby><ruby>歳<rt>ざい</rt></ruby>!『[例のあの人]{.em_bullet}』がとうとういなくなったんですよ! あなたのようなマグルも、こんな幸せなめでたい日はお祝いすべきです」 小さな老人は、ダーズリー氏のおへそのあたりをやおらギュッと抱きしめると、立ち去っていった。ダーズリー氏はその場に根が<ruby>生<rt>は</rt></ruby>えたように突っ立っていた。まったく見ず知らずの人に抱きつかれた。マグルとかなんとか呼ばれたような気もする。クラクラしてきた。急いで車に乗り込むと、ダーズリー氏は家に向かって走り出した。どうか自分の<ruby>幻<rt>げん</rt></ruby><ruby>想<rt>そう</rt></ruby>でありますように......幻想など決して認めないダーズリー氏にしてみれば、こんな願いを持つのは生まれて初めてだった。 やっとの思いで四番地に戻ると、真っ先に目に入ったのは――ああ、なんたることだ――<ruby>今<rt>け</rt></ruby><ruby>朝<rt>さ</rt></ruby>見かけた、あの、トラ猫だった。今度は庭の<ruby>石<rt>いし</rt></ruby><ruby>垣<rt>がき</rt></ruby>の上に座り<ruby>込<rt>こ</rt></ruby>んでいる。間違いなくあの猫だ。目のまわりの<ruby>模<rt>も</rt></ruby><ruby>様<rt>よう</rt></ruby>がおんなじだ。 「シッシッ!」 ダーズリー氏は大声を出した。 猫は動かない。じろりとダーズリー氏を見ただけだ。[まともな]{.em_bullet}猫がこんな<ruby>態<rt>たい</rt></ruby><ruby>度<rt>ど</rt></ruby>を取るのだろうか、と彼は首をかしげた。それから気をシャンと取りなおし、家に入っていった。妻には何も言うまいという決心は変わっていなかった。奥さんは、すばらしく[まともな]{.em_bullet}一日を過ごしていた。夕食を食べながら、<ruby>隣<rt>となり</rt></ruby>のミセス何とかが娘のことでさんざん困っているとか、ダドリー坊やが「イヤッ!」という新しい言葉を覚えたとかを夫に話して聞かせた。ダーズリー氏はなるべくふだんどおりに<ruby>振<rt>ふ</rt></ruby>る<ruby>舞<rt>ま</rt></ruby>おうとした。ダドリー坊やが寝た<ruby>後<rt>あと</rt></ruby>、<ruby>居<rt>い</rt></ruby><ruby>間<rt>ま</rt></ruby>に移ったが、ちょうどテレビの最後のニュースが始まったところだった。 「さて最後のニュースです。全国のバードウォッチャーによれば、今日はイギリス中のふくろうがおかしな行動を見せたとのことです。<ruby>通常<rt>つうじょう</rt></ruby>、ふくろうは夜に<ruby>狩<rt>かり</rt></ruby>をするので、昼間に姿を見かけることはめったにありませんが、今日は夜明けとともに、何百というふくろうが<ruby>四<rt>し</rt></ruby><ruby>方<rt>ほう</rt></ruby><ruby>八<rt>はっ</rt></ruby><ruby>方<rt>ぽう</rt></ruby>に飛び<ruby>交<rt>か</rt></ruby>う光景が見られました。なぜふくろうの行動が急に<ruby>夜<rt>よる</rt></ruby><ruby>昼<rt>ひる</rt></ruby><ruby>逆<rt>ぎゃく</rt></ruby>になったのか、<ruby>専<rt>せん</rt></ruby><ruby>門<rt>もん</rt></ruby><ruby>家<rt>か</rt></ruby>たちは首をかしげています」 そこでアナウンサーはニヤリと<ruby>苦<rt>にが</rt></ruby><ruby>笑<rt>わら</rt></ruby>いした。 「ミステリーですね。ではお天気です。ジム・マックガフィンさんどうぞ。ジム、今夜もふくろうが<ruby>降<rt>ふ</rt></ruby>ってきますか?」 「テッド、そのあたりはわかりませんが、今日おかしな行動をとったのはふくろうばかりではありませんよ。<ruby>視<rt>し</rt></ruby><ruby>聴<rt>ちょう</rt></ruby><ruby>者<rt>しゃ</rt></ruby>の皆さんが、遠くはケント、ヨークシャー、ダンディー<ruby>州<rt>しゅう</rt></ruby>からお電話をくださいました。昨日私は雨の<ruby>予<rt>よ</rt></ruby><ruby>報<rt>ほう</rt></ruby>を出したのに、かわりに流れ星が<ruby>土<rt>ど</rt></ruby><ruby>砂<rt>しゃ</rt></ruby><ruby>降<rt>ぶ</rt></ruby>りだったそうです。たぶん<ruby>早<rt>はや</rt></ruby><ruby>々<rt>ばや</rt></ruby>と『ガイ・フォークスの<ruby>焚<rt>た</rt></ruby>き<ruby>火<rt>び</rt></ruby><ruby>祭<rt>まつ</rt></ruby>り』でもやったんじゃないでしょうか。皆さん、祭りの花火は来週ですよ! いずれにせよ、今夜は間違いなく雨でしょう」 <ruby>安<rt>あん</rt></ruby><ruby>楽<rt>らく</rt></ruby><ruby>椅<rt>い</rt></ruby><ruby>子<rt>す</rt></ruby>の中でダーズリー氏は体が<ruby>凍<rt>こお</rt></ruby>りついたような気がした。イギリス中で流れ星だって? <ruby>真<rt>ま</rt></ruby>っ<ruby>昼<rt>ぴる</rt></ruby><ruby>間<rt>ま</rt></ruby>からふくろうが飛んだ? マントを着た<ruby>奇妙<rt>きみょう</rt></ruby>な<ruby>連中<rt>れんちゅう</rt></ruby>がそこいら中にいた? それに、あのヒソヒソ話。ポッター一家がどうしたとか......。 奥さんが紅茶を二つ持って居間に入ってきた。まずい。妻に何か言わなければなるまい。ダーズリー氏は落着かない<ruby>咳<rt>せき</rt></ruby><ruby>払<rt>ばら</rt></ruby>いをした。 「あー、ペチュニアや。ところで最近おまえの<ruby>妹<rt>いもうと</rt></ruby>さんから<ruby>便<rt>たよ</rt></ruby>りはなかったろうね」 <ruby>案<rt>あん</rt></ruby>の<ruby>定<rt>じょう</rt></ruby>、奥さんはビクッとして怒った顔をした。二人ともふだん、奥さんに妹はいないということにしているのだから当然だ。 「ありませんよ。どうして?」 とげとげしい返事だ。 「おかしなニュースを見たんでね」 ダーズリー氏はモゴモゴ言った。 「ふくろうとか......流れ星だとか......それに、今日<ruby>街<rt>まち</rt></ruby>に変な<ruby>格<rt>かっ</rt></ruby><ruby>好<rt>こう</rt></ruby>をした<ruby>連中<rt>れんちゅう</rt></ruby>がたくさんいたんでな」 「それで?」 「いや、ちょっと思っただけだがね......もしかしたら......何かかかわりがあるかと......その、なんだ......あれの仲間と」 奥さんは口をすぼめて紅茶をすすった。ダーズリー氏は「ポッター」という名前を耳にしたと思いきって打ち明けるべきかどうか迷ったが、やはりやめることにした。そのかわり、できるだけさりげなく聞いた。 「あそこの<ruby>息子<rt>むすこ</rt></ruby>だが......たしかうちのダドリーと同じくらいの年じゃなかったかね?」 「そうかも」 「何という名前だったか......。たしかハワードだったね」 「ハリーよ。私に言わせりゃ、<ruby>下<rt>げ</rt></ruby><ruby>品<rt>ひん</rt></ruby>でありふれた名前ですよ」 「ああ、そうだった。おまえの言うとおりだよ」 ダーズリー氏はすっかり落ち<ruby>込<rt>こ</rt></ruby>んでしまった。二人で二階の<ruby>寝<rt>しん</rt></ruby><ruby>室<rt>しつ</rt></ruby>に上がっていく時も、彼はまったくこの話題には<ruby>触<rt>ふ</rt></ruby>れなかった。 奥さんが<ruby>洗<rt>せん</rt></ruby><ruby>面<rt>めん</rt></ruby><ruby>所<rt>じょ</rt></ruby>に行ったすきに、こっそり寝室の窓に近寄り、家の前をのぞいてみた。あの猫はまだそこにいた。何かを待っているように、プリベット通りの奥の方をじっと見つめている。 ――これも自分の<ruby>幻<rt>げん</rt></ruby><ruby>想<rt>そう</rt></ruby>なのか? これまでのことは何もかもポッター一家とかかわりがあるのだろうか? もしそうなら......もし自分たちがあんな夫婦と関係があるなんてことが<ruby>明<rt>あか</rt></ruby>るみに出たら......ああ、そんなことには<ruby>耐<rt>た</rt></ruby>えられない。 ベッドに入ると、奥さんはすぐに<ruby>寝<rt>ね</rt></ruby><ruby>入<rt>い</rt></ruby>ってしまったが、ダーズリー氏はあれこれ考えて寝つけなかった。 ――しかし、<ruby>万<rt>まん</rt></ruby><ruby>々<rt>まん</rt></ruby>が一ポッターたちがかかわっていたにせよ、あの連中が自分たちの近くにやってくるはずがない。あの二人やあの連中のことをわしらがどう思っているかポッター夫妻は知っているはずだ......何が起こっているかは知らんが、わしやペチュニアがかかわり合いになることなどあり得ない――そう思うと少しホッとして、ダーズリー氏は<ruby>欠伸<rt>あくび</rt></ruby>をして<ruby>寝<rt>ね</rt></ruby><ruby>返<rt>がえ</rt></ruby>りを打った。 ――わしらにかぎって、絶対にかかわり合うことはない......。 ――**何という見当ちがい**―― ダーズリー氏がトロトロと浅い眠りに落ちたころ、<ruby>塀<rt>へい</rt></ruby>の上の猫は眠る<ruby>気<rt>け</rt></ruby><ruby>配<rt>はい</rt></ruby>さえ見せていなかった。<ruby>銅<rt>どう</rt></ruby><ruby>像<rt>ぞう</rt></ruby>のようにじっと座ったまま、<ruby>瞬<rt>まばた</rt></ruby>きもせずプリベット通りの奥の曲り角を見つめていた。<ruby>隣<rt>となり</rt></ruby>の道路で車のドアをバタンと閉める音がしても、二羽のふくろうが頭上を飛び<ruby>交<rt>か</rt></ruby>っても、毛一本動かさない。真夜中近くになって、初めて猫は動いた。 猫が見つめていたあたりの曲り角に、一人の男が現れた。あんまり<ruby>突<rt>とつ</rt></ruby><ruby>然<rt>ぜん</rt></ruby>、あんまりスーッと現れたので、地面から<ruby>湧<rt>わ</rt></ruby>いて出たかと思えるぐらいだった。猫はしっぽをピクッとさせて、目を細めた。 プリベット通りでこんな人は<ruby>絶<rt>ぜっ</rt></ruby><ruby>対<rt>たい</rt></ruby>見かけるはずがない。ヒョロリと背が高く、<ruby>髪<rt>かみ</rt></ruby>や<ruby>鬚<rt>ひげ</rt></ruby>の白さから見て相当の<ruby>年<rt>とし</rt></ruby><ruby>寄<rt>よ</rt></ruby>りだ。髪も鬚もあまりに長いので、ベルトに<ruby>挟<rt>はさ</rt></ruby>み込んでいる。ゆったりと長いローブの上に、地面を引きずるほどの長い<ruby>紫<rt>むらさき</rt></ruby>のマントをはおり、<ruby>踵<rt>かかと</rt></ruby>の高い、<ruby>留<rt>と</rt></ruby>め<ruby>金<rt>がね</rt></ruby><ruby>飾<rt>かざ</rt></ruby>りのついたブーツをはいている。<ruby>淡<rt>あわ</rt></ruby>いブルーの<ruby>眼<rt>め</rt></ruby>が、<ruby>半<rt>はん</rt></ruby><ruby>月<rt>げつ</rt></ruby><ruby>形<rt>がた</rt></ruby>のメガネの奥でキラキラ<ruby>輝<rt>かがや</rt></ruby>き、高い鼻が<ruby>途中<rt>とちゅう</rt></ruby>で少なくとも二回は折れたように曲っている。この人の名は**アルバス・ダンブルドア**。 名前も、ブーツも、何から何までプリベット通りらしくない。しかし、ダンブルドアはまったく気にしていないようだった。マントの中をせわしげに何かをガサゴソ探していたが、誰かの<ruby>視<rt>し</rt></ruby><ruby>線<rt>せん</rt></ruby>に気づいたらしく、ふっと顔を上げ、通りのむこうからこちらの様子をじっとうかがっている猫を見つけた。そこに猫がいるのが、なぜかおもしろいらしく、クスクスと笑うと、「やっぱりそうか」と<ruby>呟<rt>つぶや</rt></ruby>いた。 探していたものが内ポケットから出てきた。銀のライターのようだ。ふたをパチンと<ruby>開<rt>あ</rt></ruby>け、高くかざして、カチッと鳴らした。 一番近くの<ruby>街<rt>がい</rt></ruby><ruby>灯<rt>とう</rt></ruby>が、ポッと小さな音を立てて消えた。 もう一度カチッといわせた。 次の街灯がゆらめいて<ruby>闇<rt>やみ</rt></ruby>の中に消えていった。「<ruby>灯<rt>ひ</rt></ruby><ruby>消<rt>け</rt></ruby>しライター」を十二回カチカチ鳴らすと、十二個の街灯は次々と消え、残る<ruby>灯<rt>あか</rt></ruby>りは、遠くの、針の先でつついたような二つの点だけになった。猫の目だ。まだこっちを見つめている。いま誰かが窓の外をのぞいても、ビーズのように光る目のダーズリー夫人でさえ、何が起こっているのか、この<ruby>暗<rt>くら</rt></ruby><ruby>闇<rt>やみ</rt></ruby>ではまったく見えなかっただろう。ダンブルドアは「灯消しライター」をマントの中にスルリとしまい、四番地の方へと歩いた。そして塀の上の猫の隣に<ruby>腰<rt>こし</rt></ruby><ruby>掛<rt>か</rt></ruby>けた。<ruby>一<rt>ひと</rt></ruby><ruby>息<rt>いき</rt></ruby>おくと、顔は向けずに、猫に向かって話しかけた。 「マクゴナガル先生、こんなところで<ruby>奇<rt>き</rt></ruby><ruby>遇<rt>ぐう</rt></ruby>じゃのう」 トラ猫の方に顔を向け、ほほえみかけると、猫はすでに消えていた。かわりに、<ruby>厳<rt>げん</rt></ruby><ruby>格<rt>かく</rt></ruby>そうな女の人が、あの猫の目の<ruby>周<rt>まわ</rt></ruby>りにあった<ruby>縞<rt>しま</rt></ruby><ruby>模<rt>も</rt></ruby><ruby>様<rt>よう</rt></ruby>とそっくりの四角いメガネをかけて座っていた。やはりマントを、しかもエメラルド色のを着ている。黒い髪をひっつめて、小さな<ruby>髷<rt>まげ</rt></ruby>にしている。 「どうして<ruby>私<rt>わたくし</rt></ruby>だとおわかりになりましたの?」 女の人は<ruby>見<rt>み</rt></ruby><ruby>破<rt>やぶ</rt></ruby>られて<ruby>動<rt>どう</rt></ruby><ruby>揺<rt>よう</rt></ruby>していた。 「まあまあ、先生。あんなにコチコチな座り方をする猫なんていやしませんぞ」 「一日中レンガ<ruby>塀<rt>べい</rt></ruby>の上に座っていればコチコチにもなります」 「一日中? お祝いしていればよかったのに。ここに来る<ruby>途中<rt>とちゅう</rt></ruby>、お祭りやらパーティやら、ずいぶんたくさん見ましたよ」 マクゴナガル先生は怒ったようにフンと鼻を鳴らした。 「ええ、たしかにみんな浮かれていますね」 マクゴナガル先生はいらいらした<ruby>口調<rt>くちょう</rt></ruby>だ。 「みんなもう少し<ruby>慎重<rt>しんちょう</rt></ruby>にすべきだとお思いになりませんか? まったく......マグルたちでさえ、何かあったと感づきましたよ。何しろニュースになりましたから」 マクゴナガル先生は明かりの消えたダーズリー家の窓を<ruby>顎<rt>あご</rt></ruby>でしゃくった。 「この耳で聞きましたよ。ふくろうの大群......<ruby>流<rt>りゅう</rt></ruby><ruby>星<rt>せい</rt></ruby><ruby>群<rt>ぐん</rt></ruby>......そうなると、マグルの<ruby>連中<rt>れんちゅう</rt></ruby>もまったくのおバカさんじゃありませんからね。何か感づかないはずはありません。ケント<ruby>州<rt>しゅう</rt></ruby>の流星群だなんて――ディーダラス・ディグルの<ruby>仕業<rt>しわざ</rt></ruby>だわ。あの人はいつだって<ruby>軽<rt>かる</rt></ruby>はずみなんだから」 「みんなを<ruby>責<rt>せ</rt></ruby>めるわけにはいかんでしょう」 ダンブルドアは<ruby>優<rt>やさ</rt></ruby>しく言った。 「この十一年間、お祝いごとなぞほとんどなかったのじゃから」 「それはわかっています」 マクゴナガル先生は腹立たしげに言った。 「だからといって、<ruby>分<rt>ふん</rt></ruby><ruby>別<rt>べつ</rt></ruby>を失ってよいわけはありません。みんな、なんて不注意なんでしょう。<ruby>真<rt>ま</rt></ruby>っ<ruby>昼<rt>ぴる</rt></ruby><ruby>間<rt>ま</rt></ruby>から<ruby>街<rt>まち</rt></ruby>に出るなんて。しかもマグルの服に<ruby>着<rt>き</rt></ruby><ruby>替<rt>が</rt></ruby>えもせずに、あんな<ruby>格<rt>かっ</rt></ruby><ruby>好<rt>こう</rt></ruby>のままで<ruby>噂話<rt>うわさばなし</rt></ruby>をし合うなんて」 ダンブルドアが何か言ってくれるのを期待しているかのように、マクゴナガル先生はチラリと横目でダンブルドアを見たが、何も反応がないので、話を続けた。 「よりによって、『[例のあの人]{.em_bullet}』がついに<ruby>消<rt>き</rt></ruby>え<ruby>失<rt>う</rt></ruby>せたちょうどその日に、今度はマグルが私たちに気づいてしまったらとんでもないことですわ。ダンブルドア先生、『[あの人]{.em_bullet}』は本当に消えてしまったのでしょうね?」 「たしかにそうらしいのう。我々は大いに<ruby>感<rt>かん</rt></ruby><ruby>謝<rt>しゃ</rt></ruby>しなければ。レモン・キャンディーはいかがかな?」 「何ですって?」 「レモン・キャンディーじゃよ。マグルの食べる甘いものじゃが、わしゃ、これが好きでな」 「<ruby>結<rt>けっ</rt></ruby><ruby>構<rt>こう</rt></ruby>です」 レモン・キャンディーなど食べている場合ではないとばかりに、マクゴナガル先生は<ruby>冷<rt>ひ</rt></ruby>ややかに答えた。 「いま申し上げましたように、たとえ『[例のあの人]{.em_bullet}』が消えたにせよ......」 「まあまあ、先生、あなたのように<ruby>見<rt>けん</rt></ruby><ruby>識<rt>しき</rt></ruby>のおありになる方が、彼を<ruby>名<rt>な</rt></ruby><ruby>指<rt>ざ</rt></ruby>しで呼べないわけはないでしょう? 『[例のあの人]{.em_bullet}』なんてまったくもってナンセンス。この十一年間、ちゃんと名前で呼ぶようみんなを<ruby>説<rt>せっ</rt></ruby><ruby>得<rt>とく</rt></ruby>し続けてきたのじゃが。『**ヴォルデモート**』とね」 マクゴナガル先生はギクリとしたが、ダンブルドアはくっついたレモン・キャンディーをはがすのに夢中で気づかないようだった。 「『[例のあの人]{.em_bullet}』なんて呼び続けたら、<ruby>混<rt>こん</rt></ruby><ruby>乱<rt>らん</rt></ruby>するばかりじゃよ。ヴォルデモートの名前を言うのが恐ろしいなんて、理由がないじゃろうが」 「そりゃ、先生にとってはないかもしれませんが」 マクゴナガル先生は<ruby>驚<rt>おどろ</rt></ruby>きと<ruby>尊<rt>そん</rt></ruby><ruby>敬<rt>けい</rt></ruby>の<ruby>入<rt>い</rt></ruby>り<ruby>交<rt>ま</rt></ruby>じった言い方をした。 「だって、先生はみんなとは違います。『[例のあ]{.em_bullet}』......いいでしょう、**ヴォルデモート**が恐れていたのはあなた一人だけだったということは、みんな知ってますよ」 「おだてないでおくれ」 ダンブルドアは静かに言った。 「ヴォルデモートには、わしには決して持つことができない力があったよ」 「それは、あなたがあまりに――そう......<ruby>気<rt>け</rt></ruby><ruby>高<rt>だか</rt></ruby>くて、そういう力を使おうとなさらなかったからですわ」 「あたりが暗くて幸いじゃよ。こんなに赤くなったのはマダム・ポンフリーがわしの新しい耳あてを<ruby>誉<rt>ほ</rt></ruby>めてくれた時<ruby>以<rt>い</rt></ruby><ruby>来<rt>らい</rt></ruby>じゃ」 マクゴナガル先生は<ruby>鋭<rt>するど</rt></ruby>いまなざしでダンブルドアを見た。 「ふくろうが飛ぶのは、<ruby>噂<rt>うわさ</rt></ruby>が飛ぶのに比べたらなんでもありませんよ。みんながどんな噂をしているか、ご<ruby>存<rt>ぞん</rt></ruby><ruby>知<rt>じ</rt></ruby>ですか? なぜ彼が消えたのだろうとか、何が彼にとどめを<ruby>刺<rt>さ</rt></ruby>したのだろうかとか」 マクゴナガル先生はいよいよ<ruby>核<rt>かく</rt></ruby><ruby>心<rt>しん</rt></ruby>に<ruby>触<rt>ふ</rt></ruby>れたようだ。一日中冷たい、固い<ruby>塀<rt>へい</rt></ruby>の上で待っていた本当のわけはこれだ。猫に変身していた時にも、自分の姿に戻った時にも見せたことがない、<ruby>射<rt>さ</rt></ruby>すようなまなざしで、ダンブルドアを見すえている。他の人がなんと言おうが、ダンブルドアの口から聞かないかぎり、<ruby>絶<rt>ぜっ</rt></ruby><ruby>対<rt>たい</rt></ruby>信じないという目つきだ。ダンブルドアは何も答えず、レモン・キャンディーをもう一個取り出そうとしていた。 「みんなが何と噂しているかですが......」 マクゴナガル先生はもう<ruby>一<rt>ひと</rt></ruby><ruby>押<rt>お</rt></ruby>ししてきた。 「<ruby>昨<rt>さく</rt></ruby><ruby>夜<rt>や</rt></ruby>、ヴォルデモートがゴドリックの谷に現れた。ポッター一家が<ruby>狙<rt>ねら</rt></ruby>いだった。噂ではリリーとジェームズが......ポッター<ruby>夫妻<rt>ふさい</rt></ruby>が......あの二人が......死んだ......とか」 ダンブルドアはうなだれた。マクゴナガル先生は息を<ruby>呑<rt>の</rt></ruby>んだ。 「リリーとジェームズが......信じられない......信じたくなかった......ああ、アルバス......」 ダンブルドアは手を伸ばしてマクゴナガル先生の肩をそっと<ruby>叩<rt>たた</rt></ruby>いた。 「わかる......よーくわかるよ......」 <ruby>沈<rt>ちん</rt></ruby><ruby>痛<rt>つう</rt></ruby>な声だった。 マクゴナガル先生は声を<ruby>震<rt>ふる</rt></ruby>わせながら話し続けた。 「それだけじゃありませんわ。<ruby>噂<rt>うわさ</rt></ruby>では、一人<ruby>息子<rt>むすこ</rt></ruby>のハリーを殺そうとしたとか。でも――失敗した。その小さな男の子を殺すことはできなかった。なぜなのか、どうなったのかはわからないが、ハリー・ポッターを殺しそこねた時、ヴォルデモートの力が打ち<ruby>砕<rt>くだ</rt></ruby>かれた――だから彼は消えたのだと、そういう噂です」 ダンブルドアはむっつりとうなずいた。 「それじゃ......やはり**本当**なんですか?」 マクゴナガル先生は口ごもった。 「あれほどのことをやっておきながら......あんなにたくさん人を殺したのに......小さな子供を殺しそこねたっていうんですか? <ruby>驚異<rt>きょうい</rt></ruby>ですわ......よりによって、彼にとどめを<ruby>刺<rt>さ</rt></ruby>したのは子供......それにしても、<ruby>一<rt>いっ</rt></ruby><ruby>体<rt>たい</rt></ruby><ruby>全<rt>ぜん</rt></ruby><ruby>体<rt>たい</rt></ruby>ハリーはどうやって生き<ruby>延<rt>の</rt></ruby>びたんでしょう?」 「<ruby>想<rt>そう</rt></ruby><ruby>像<rt>ぞう</rt></ruby>するしかないじゃろう。本当のことはわからずじまいかもしれん」 マクゴナガル先生はレースのハンカチを取り出し、メガネの下から<ruby>眼<rt>め</rt></ruby>に押し当てた。ダンブルドアは大きく鼻をすすると、ポケットから<ruby>金<rt>きん</rt></ruby><ruby>時<rt>ど</rt></ruby><ruby>計<rt>けい</rt></ruby>を取り出して時間を見た。とてもおかしな時計だ。針は十二本もあるのに、数字が書いていない。そのかわり、小さな<ruby>惑<rt>わく</rt></ruby><ruby>星<rt>せい</rt></ruby>がいくつも時計の<ruby>縁<rt>ふち</rt></ruby>を回っていた。ダンブルドアにはこれでわかるらしい。時計をポケットにしまうと、こう言った。 「ハグリッドは<ruby>遅<rt>おそ</rt></ruby>いのう。ところで、あの男じゃろう? わしがここに来ると教えたのは」 「そうです。一体全体なぜこんなところにおいでになったのか、たぶん話してはくださらないのでしょうね?」 「ハリー・ポッターを、おばさん夫婦のところへ連れてくるためじゃよ。<ruby>親<rt>しん</rt></ruby><ruby>戚<rt>せき</rt></ruby>はそれしかいないのでな」 「まさか――間違っても、ここに住んでいる<ruby>連中<rt>れんちゅう</rt></ruby>のことじゃないでしょうね」 マクゴナガル先生は<ruby>弾<rt>はじ</rt></ruby>かれたように立ち上がり、四番地を指さしながら<ruby>叫<rt>さけ</rt></ruby>んだ。 「ダンブルドア、だめですよ。今日一日ここの住人を見ていましたが、ここの夫婦ほど<ruby>私<rt>わたくし</rt></ruby>たちとかけ<ruby>離<rt>はな</rt></ruby>れた連中はまたといませんよ。それにここの息子ときたら――母親がこの通りを歩いている時、お菓子が<ruby>欲<rt>ほ</rt></ruby>しいと泣きわめきながら母親を<ruby>蹴<rt>け</rt></ruby>り続けていましたよ。ハリー・ポッターがここに住むなんて!」 「ここがあの子にとって一番いいのじゃ」 ダンブルドアはきっぱりと言った。 「おじさんとおばさんが、あの子が大きくなったらすべてを話してくれるじゃろう。わしが手紙を書いておいたから」 「手紙ですって?」 マクゴナガル先生は力なくそう<ruby>繰<rt>く</rt></ruby>り<ruby>返<rt>かえ</rt></ruby>すと、また<ruby>塀<rt>へい</rt></ruby>に座りなおした。 「ねえ、ダンブルドア。手紙で<ruby>一<rt>いっ</rt></ruby><ruby>切<rt>さい</rt></ruby>を説明できるとお考えですか? <ruby>連中<rt>れんちゅう</rt></ruby>は<ruby>絶<rt>ぜっ</rt></ruby><ruby>対<rt>たい</rt></ruby>あの子のことを理解しやしません! あの子は有名人です――伝説の人です――今日のこの日が、いつかハリー・ポッター記念日になるかもしれない――ハリーに関する本が書かれるでしょう――私たちの世界でハリーの名を知らない子供は一人もいなくなるでしょう!」 「そのとおり」 ダンブルドアは<ruby>半<rt>はん</rt></ruby><ruby>月<rt>げつ</rt></ruby>メガネの上から<ruby>真<rt>ま</rt></ruby><ruby>面<rt>じ</rt></ruby><ruby>目<rt>め</rt></ruby>な目つきをのぞかせた。 「そうなればどんな少年でも<ruby>舞<rt>ま</rt></ruby>い上がってしまうじゃろう。歩いたりしゃべったりする前から有名だなんて! 自分が覚えてもいないことのために有名だなんて! あの子に受け入れる準備ができるまで、そうしたことから一切<ruby>離<rt>はな</rt></ruby>れて育つ方がずっといいということがわからんかね?」 マクゴナガル先生は口を開きかけたが、思いなおして、<ruby>喉<rt>のど</rt></ruby>まで出かかった言葉を<ruby>呑<rt>の</rt></ruby>み<ruby>込<rt>こ</rt></ruby>んだ。 「そう、そうですね。おっしゃるとおりですわ。でもダンブルドア、どうやってあの子をここに連れてくるんですか?」 ダンブルドアがハリーをマントの下に<ruby>隠<rt>かく</rt></ruby>しているとでも思ったのか、マクゴナガル先生はチラリとマントに目をやった。 「ハグリッドが連れてくるよ」 「こんな大事なことをハグリッドに<ruby>任<rt>まか</rt></ruby>せて――あの......<ruby>賢<rt>けん</rt></ruby><ruby>明<rt>めい</rt></ruby>なことでしょうか?」 「わしは自分の命でさえハグリッドに任せられるよ」 「何もあれの<ruby>心根<rt>こころね</rt></ruby>がまっすぐじゃないなんて申しませんが」 マクゴナガル先生はしぶしぶ認めた。 「でもご<ruby>存<rt>ぞん</rt></ruby><ruby>知<rt>じ</rt></ruby>のように、うっかりしているでしょう。どうもあれときたら――おや、何かしら?」 低いゴロゴロという音があたりの静けさを<ruby>破<rt>やぶ</rt></ruby>った。二人が通りの<ruby>端<rt>はし</rt></ruby>から端まで、車のヘッドライトが見えはしないかと探している間に、音は確実に大きくなってきた。二人が同時に空を見上げた時には、音は<ruby>爆<rt>ばく</rt></ruby><ruby>音<rt>おん</rt></ruby>になっていた。――大きなオートバイが空からドーンと<ruby>降<rt>ふ</rt></ruby>ってきて、二人の目の前に<ruby>着陸<rt>ちゃくりく</rt></ruby>した。 巨大なオートバイだったが、それにまたがっている男に比べればちっぽけなものだ。男の<ruby>背<rt>せ</rt></ruby><ruby>丈<rt>たけ</rt></ruby>は普通の二倍、<ruby>横<rt>よこ</rt></ruby><ruby>幅<rt>はば</rt></ruby>は五倍はある。許しがたいほど大きすぎて、それになんて荒々しい――ボウボウとした黒い<ruby>髪<rt>かみ</rt></ruby>と<ruby>髯<rt>ひげ</rt></ruby>が、長くモジャモジャと<ruby>絡<rt>から</rt></ruby>まり、ほとんど顔中を<ruby>覆<rt>おお</rt></ruby>っている。手はゴミバケツのふたほど大きく、<ruby>革<rt>かわ</rt></ruby>ブーツをはいた足は赤ん坊イルカぐらいある。<ruby>筋<rt>きん</rt></ruby><ruby>肉<rt>にく</rt></ruby><ruby>隆々<rt>りゅうりゅう</rt></ruby>の巨大な<ruby>腕<rt>うで</rt></ruby>に、何か毛布にくるまったものを<ruby>抱<rt>かか</rt></ruby>えていた。 「ハグリッドや」 ダンブルドアはほっとしたような声で呼びかけた。 「やっと来たね。いったいどこからオートバイを手に入れたね?」 「借りたんでさ。ダンブルドア先生様」 大男はそーっと注意深くバイクから降りた。 「ブラック<ruby>家<rt>け</rt></ruby>の<ruby>息子<rt>むすこ</rt></ruby>のシリウスに借りたんでさ。先生、この子を連れてきました」 「問題はなかったろうね?」 「はい、先生。家はあらかた<ruby>壊<rt>こわ</rt></ruby>されっちまってたですが、マグルたちが<ruby>群<rt>む</rt></ruby>れ<ruby>寄<rt>よ</rt></ruby>ってくる前に、無事に連れ出しました。ブリストルの上空を飛んどった時に、この子は眠っちまいました」 ダンブルドアとマクゴナガル先生は毛布の包みの中をのぞき<ruby>込<rt>こ</rt></ruby>んだ。かすかに、男の赤ん坊が見えた。ぐっすり眠っている。<ruby>漆<rt>しっ</rt></ruby><ruby>黒<rt>こく</rt></ruby>のふさふさした<ruby>前<rt>まえ</rt></ruby><ruby>髪<rt>がみ</rt></ruby>、そして<ruby>額<rt>ひたい</rt></ruby>には<ruby>不<rt>ふ</rt></ruby><ruby>思<rt>し</rt></ruby><ruby>議<rt>ぎ</rt></ruby>な形の<ruby>傷<rt>きず</rt></ruby>が見えた。<ruby>稲<rt>いな</rt></ruby><ruby>妻<rt>ずま</rt></ruby>のような形だ。 「この傷があの......」マクゴナガル先生が<ruby>囁<rt>ささや</rt></ruby>いた。 「そうじゃ。一生残るじゃろう」 「ダンブルドア、なんとかしてやれないんですか?」 「たとえできたとしても、わしは何もせんよ。傷は<ruby>結<rt>けっ</rt></ruby><ruby>構<rt>こう</rt></ruby>役に立つもんじゃ。わしにも一つ左<ruby>膝<rt>ひざ</rt></ruby>の上にあるがね、完全なロンドンの地下鉄地図になっておる......さてと、ハグリッドや、その子をこっちへ――早くすませたほうがよかろう」 ダンブルドアはハリーを腕に抱き、ダーズリー家の方に行こうとした。 「あの......先生、お別れのキスをさせてもらえねえでしょうか?」 ハグリッドが<ruby>頼<rt>たの</rt></ruby>んだ。 大きな毛むくじゃらの顔をハリーに近づけ、ハグリッドはチクチク痛そうなキスをした。そして<ruby>突<rt>とつ</rt></ruby><ruby>然<rt>ぜん</rt></ruby>、傷ついた犬のような声でワオーンと泣き出した。 「シーッ! マグルたちが目を覚ましてしまいますよ」 マクゴナガル先生が注意した。 「す、す、すまねえ」 しゃくり上げながらハグリッドは大きな<ruby>水<rt>みず</rt></ruby><ruby>玉<rt>たま</rt></ruby><ruby>模<rt>も</rt></ruby><ruby>様<rt>よう</rt></ruby>のハンカチを取り出し、その中に顔を<ruby>埋<rt>うず</rt></ruby>めた。 「と、とってもがまんできねえ......リリーとジェームズは死んじまうし、かわいそうなちっちゃなハリーはマグルたちと暮さなきゃなんねえ......」 「そうよ、ほんとに悲しいことよ。でもハグリッド、自分を<ruby>抑<rt>おさ</rt></ruby>えなさい。さもないとみんなに見つかってしまいますよ」 マクゴナガル先生は<ruby>小<rt>こ</rt></ruby><ruby>声<rt>ごえ</rt></ruby>でそう言いながら、ハグリッドの<ruby>腕<rt>うで</rt></ruby>を<ruby>優<rt>やさ</rt></ruby>しくポンポンと<ruby>叩<rt>たた</rt></ruby>いた。 ダンブルドアは庭の低い<ruby>生<rt>いけ</rt></ruby><ruby>垣<rt>がき</rt></ruby>をまたいで、<ruby>玄<rt>げん</rt></ruby><ruby>関<rt>かん</rt></ruby>へと歩いていった。そっとハリーを戸口に置くと、マントから手紙を取り出し、ハリーをくるんだ毛布に<ruby>挟<rt>はさ</rt></ruby>み<ruby>込<rt>こ</rt></ruby>み、二人のところに戻ってきた。三人は、まるまる一分間そこにたたずんで、小さな毛布の包みを見つめていた。ハグリッドは肩を<ruby>震<rt>ふる</rt></ruby>わせ、マクゴナガル先生は目をしばたかせ、ダンブルドアの目からはいつものキラキラした<ruby>輝<rt>かがや</rt></ruby>きが消えていた。 「さてと......」 ダンブルドアがやっと口を開いた。 「これですんだ。もうここにいる必要はない。帰ってお祝いに参加しようかの」 「へい」 ハグリッドの声はくぐもっている。 「バイクは<ruby>片<rt>かた</rt></ruby>づけておきますだ。マクゴナガル先生、ダンブルドア先生様、おやすみなせえ」 ハグリッドは流れ落ちる涙を上着の<ruby>袖<rt>そで</rt></ruby>でぬぐい、オートバイにさっとまたがり、エンジンをかけた。バイクは<ruby>唸<rt>うな</rt></ruby>りをあげて空に<ruby>舞<rt>ま</rt></ruby>い上がり、夜の<ruby>闇<rt>やみ</rt></ruby>へと消えていった。 「<ruby>後<rt>のち</rt></ruby>ほどお会いしましょうぞ。マクゴナガル先生」 ダンブルドアはマクゴナガル先生の方に向かってうなずいた。マクゴナガル先生は答のかわりに鼻をかんだ。 ダンブルドアはくるりと背を向け、通りのむこうに向かって歩き出した。曲り角で立ち止まり、また銀の「<ruby>灯<rt>ひ</rt></ruby><ruby>消<rt>け</rt></ruby>しライター」を取り出し、一回だけカチッといわせた。十二個の<ruby>街<rt>がい</rt></ruby><ruby>灯<rt>とう</rt></ruby>がいっせいにともり、プリベット通りは急にオレンジ色に照らし出された。トラ猫が道のむこう側の角をしなやかに曲がっていくのが見えた。そして四番地の戸口のところには毛布の包みだけがポツンと見えた。 「幸運を<ruby>祈<rt>いの</rt></ruby>るよ、ハリー」 ダンブルドアはそう<ruby>呟<rt>つぶや</rt></ruby>くと、<ruby>靴<rt>くつ</rt></ruby>の<ruby>踵<rt>かかと</rt></ruby>でクルクルッと回転し、ヒュッというマントの音とともに消えた。 こぎれいに<ruby>刈<rt>か</rt></ruby>り込まれたプリベット通りの生垣を、静かな風が<ruby>波<rt>なみ</rt></ruby><ruby>立<rt>だ</rt></ruby>たせた。<ruby>墨<rt>すみ</rt></ruby>を流したような夜空の下で、通りはどこまでも静かで<ruby>整<rt>せい</rt></ruby><ruby>然<rt>ぜん</rt></ruby>としていた。まか<ruby>不<rt>ふ</rt></ruby><ruby>思<rt>し</rt></ruby><ruby>議<rt>ぎ</rt></ruby>な<ruby>出<rt>で</rt></ruby><ruby>来<rt>き</rt></ruby><ruby>事<rt>ごと</rt></ruby>が、ここで起こるとは誰も思ってもみなかったことだろう。赤ん坊は眠ったまま、毛布の中で<ruby>寝<rt>ね</rt></ruby><ruby>返<rt>がえ</rt></ruby>りを打った。<ruby>片<rt>かた</rt></ruby><ruby>方<rt>ほう</rt></ruby>の小さな手が、<ruby>脇<rt>わき</rt></ruby>に置かれた手紙を握った。自分が特別だなんて知らずに、有名だなんて知らずに、ハリー・ポッターは眠り続けている。数時間もすれば、ダーズリー夫人が戸を<ruby>開<rt>あ</rt></ruby>け、ミルクの<ruby>空<rt>あ</rt></ruby>き<ruby>瓶<rt>びん</rt></ruby>を外に出そうとしたとたん、<ruby>悲<rt>ひ</rt></ruby><ruby>鳴<rt>めい</rt></ruby>をあげるだろう。その声でハリーは目が覚めるだろう。それから数週間は、いとこのダドリーに<ruby>小<rt>こ</rt></ruby><ruby>突<rt>づ</rt></ruby>かれ、つねられることになるだろうに......そんなことは何も知らずに、赤ん坊は眠り続けている......ハリーにはわかるはずもないが、こうして眠っているこの<ruby>瞬間<rt>しゅんかん</rt></ruby>に、<ruby>国中<rt>くにじゅう</rt></ruby>の人が、あちこちでこっそりと集まり、<ruby>杯<rt>さかずき</rt></ruby>を<ruby>挙<rt>あ</rt></ruby>げ、ヒソヒソ声で、こう言っているのだ。 「生き残った男の子、ハリー・ポッターに<ruby>乾<rt>かん</rt></ruby><ruby>杯<rt>ぱい</rt></ruby>!」
Original:HP1-01-ja
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